地域連携による6次化経営への挑戦

山の恵み「山菜」を活かす経営拡大策を模索

岩手県西部、奥羽山脈の麓に広がる西和賀町は、2005年に旧沢内村と湯田町が合併して誕生した町。全体の80%以上が山林で、冬期間の降雪量が平年で1㍍50㌢、多い時には3㍍にもなるという県内屈指の豪雪地帯だ。また秋田との県境という立地や、雪深い気候風土から個性豊かな食文化が形成されており、大根の1本漬けや納豆汁等はこの地域を物語る「ふるさと食」として知られている。そして、山の恵みであるワラビをブランド化した「西ワラビ」は、アクが少なく柔らかでトロッとした食感と粘りから名だたるホテルのシェフからの評価も高く、この地域を代表する特産品として成長している。一方、この地域は65歳以上が人口の40%以上を占めており、休耕田の活用や後継者確保が大きな課題となっている。

この中山間地・西和賀町で、地域ブランドの「西ワラビ」や、栄養価値や需要がありながら未だ国内生産が少ない「カシス」に着目して、加工品開発や体験農園等を総合的に推進しているのが、やまに農産㈱である。常務取締役の高橋明氏は、この地に300年続く農家の10代目。現在、全国農業士連絡協議会の会長を務めるなど業界内でリーダーシップを発揮している。就農は1973年。水稲栽培を中心に営む一方、減反政策への対応としてリンドウやユリといった花き栽培に取り組んできた。そして「この雪深く土地の少ない中山間地では、山の恵みである『山菜』を活かすことこそが経営拡大の道」と考えていたが、個人ではなかなか具体的な方法を見いだせずにいた。

観光農園と未利用資源「根茎」の利活用に成功

転機が訪れたのは2001年。町の施策で転作田の有効活用と農業振興、さらには地域振興を目的として「ワラビ栽培」を奨励し、町有地のワラビの根茎の配布を始めたことによる。これを契機に転作田での栽培を決め、年々着実に栽培面積を拡大し、07年春に100㌃の成園で「つきざわ観光ワラビ園」をオープンさせた。山野を生かしたワラビ園はあるものの、平地での栽培による観光ワラビ園は他ではあまり例がなく、「手軽で安全」と中高年の女性層を中心に評判となった。また、翌08年からはワラビの品質保持のために掘り起こして廃棄する「根茎」の利活用に着目し、ワラビ澱粉の採取に対する取り組みをスタートさせた。

「もともと西和賀町では江戸時代にワラビ澱粉を採取して販売していたという記録があることや、冷害時の救荒食料として昭和30年頃まで利用されていたという事実から、この取り組みは必然的であった。しかしながら作業工程においては他に事例がなく、昔祖母から聞いていた記憶を頼りに試行錯誤を繰り返した」とは高橋常務の弁。10年にわたる試作研究や補助金を活用しての機械導入を経て加工方法を確立し、現在、国産ワラビ粉加工においては全国でたった4か所しかないうちの1か所として、稀有な存在になっている。

地域内の事業者と連携して6次産業化

              

この希少価値の高いワラビ澱粉の活用においては、「まず地元を優先で」という意思のもと、西和賀町内の菓子屋3軒と連携し、「本わらび餅」や「わらび饅頭」等を開発し販売しており、その美味しさとオリジナリティから好評を博している。ブランド化された農産物の「根茎」といった未利用資源の利活用、さらに地域内の事業者と連携して加工品開発や販売を行い地域振興に結び付ける取り組みは、付加価値化と所得向上を目的とする6次産業化の「本来のあり方」から見ても好事例と言えるのではないだろうか。

やまに農産の経営理念は、「農地を大事にし、そこから富をいただく」。ここでいう「富」とは経済的な価値はもとより、人のやりがいや充実感、幸福感も意味する。  高橋常務は「農の基本は農地。農地を大事にすることで、地域からの信頼も大きくなる。これからも農地を守り、地域特性を生かしつつ有効活用させることで、ワラビとカシスで日本一、さらには後継者が育つ農業、高齢者にも活躍の場がある農業を目指したい」と力強く語る。

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