こだわりのイチゴで6次産業化

東日本大震災をきっかけにイチゴ農家の後継者となる

夏は阿波踊りで賑わう徳島市の東部に位置する勝占地区に、家族四世代で営まれているイチゴ農家の㈲西岡産業がある。勝占地区は、冬の夜間にあまり冷え込まない気候のおかげで、甘いイチゴができる産地として関西の卸売市場では有名な存在だ。

300年前から代々この地で農業を営む西岡家は、1970年にイチゴ栽培に取り組んだ。設備投資や栽培に手間ひまがかかるイチゴ栽培から他の作物への切り替えを検討することもあったが、そのたびに「イチゴ大好き、イチゴつくって!」という子どもさんたちの励ましに支えられてきたという。

西岡家の二人姉妹の長女である西岡さち子さんは、両親からイチゴ農園の後継者として嘱望されて育ち、地元の徳島大学へ進学したが、本人はもともと農業に興味がなく、卒業後は東京でOL生活を送っていた。しかし、6年目の2011年に東日本大震災に遭い、その後まもなく、現在5歳になる長女たまおちゃんを身ごもったことが分かった。その際、関東育ちのご主人と共に「顔が見える食材、信頼がおける食材を自分たちで作ろう」と実家を継ぐべく帰郷した。

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こだわりの生産で、徳島県の認証を取得

「自分の子どもに食べさせたいものをつくる」がコンセプトの西岡産業は、「さちのか」と「ゆめのか」の2品種を35㌃のハウスで栽培。徳島県の農業試験場から新しい品種の試験栽培を依頼されるほど研究熱心なさち子さんの父の指導のもと、栽培技術面の工夫と努力を積み重ねてきた。高設栽培のハウスの温度管理、自動制御に頼らない灌水、収穫、パック詰めや箱詰めと仕事は多く、家族全員が丸1日休めることはないそうだ。

同社のイチゴは、徳島県がGAPの農場管理手法をもとに安全・安心な県産農産物を認証する「とくしま²安(あんあん)農産物」の認証を取得している。安心・安全と美味しさにこだわる同社の栽培手法を裏付けるものだ。また、JA勝占いちご部会でも、市場で高額で取り引きされる贈答用のイチゴについて、厳しい糖度チェックを実施するなど、ブランドを維持するための努力がなされているそうだ。

後継者のさち子さんは、両親から商品展開を任されている。大部分は農協から出荷されるが、インターネットでの販売のほか、マルシェやイベントに出店する対面販売にも力を入れ、野菜ソムリエの資格も取得して研鑽を積んでいる。また、13年からは6次産業化にも着手し、さち子さんの母が30年来家族のために作り続けたイチゴジャムを商品化。原材料はイチゴ・砂糖・レモンのみで、着色料や保存料は一切使わないイチゴジャムと、ジェラートを販売している。ジェラートの商品開発にはプロの協力も仰ぎ、イチゴ農家にしか作れない、生のイチゴを食べているかのような贅沢な味わいを実現している。

農業女子として勝占のイチゴを盛り上げる

さち子さんは農林水産省が推進する農業女子プロジェクトのメンバーである。次世代を担う若手のホープとして、15年に開催された「大農業女子会」では、中国・四国地区を代表して発表を行った。その演題は「農業にかける私の夢」で、勝占産ブランドイチゴのPRや、徳島で「自分の子どもに食べさせたいものをつくる」という農家としてのコンセプトを伝えるとともに、生産者の高齢化でJAのいちご部会に属する農家が半数以下に減少している現状に対して、勝占のイチゴの生産拡大や地域の活性化等に奮闘する活動を発表した。

今年2月には、フランス・パリで開催された世界最大級の農業畜産関連見本市「パリ国際アグリビジネス見本市(SIMA)」に全国の農業女子メンバーを代表して参加。招待メンバー2名のうちの1人に選ばれたさち子さんは、2週間にわたってパリでの大規模な見本市の様子をレポートし、農業女子のさらなる活躍に貢献している。

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