農が食と職になる世界を夢見て

「作り手も人、食べ手も人」を見える化する農家直送通販

「農業は、食糧生産以外にも、多くの可能性を秘めている」―そう語るのは、神奈川県藤沢市で少量多品種の野菜作りに取り組む㈱えと菜園代表の小島希世子さん。自ら野菜を作る以外に、故郷・熊本の有機農産物や、農薬に頼らない栽培から生まれた農作物を農家直送で届ける通販を運営したり、首都圏の消費者に農業体験の場を提供したりしている。

「同じ熊本県産ひのひかりでも、作り手や地域が違えば、味が違います。作り手のメッセージや個性もお米と一緒に届け、既存の流通では見えづらくなっている『作り手も人、食べ手も人』ということを少しでも見える化したい。そして、お客様と農家さんの間に『人と人とのつながり』の関係が生まれ、日本の農業と食卓をともに支えるパートナーの関係になっていければと思い、農家直送の通販を始めました」と小島さん。

通販は今年で10年目。最初は賛同してくれた1軒の農家と始めた取り組みが、今では16軒の農家との取り組みに発展。顧客のほとんどがリピーターで、その声を各農家にフィードバックすることで、品質向上に取り組んでいる。小島さん自身が作った野菜は、藤沢市葛原にある直売所で個人客に販売したり、東京・神奈川の飲食店、近隣のスーパーなどに販売している。

熊本チーム

農業体験で、消費者に食料生産の現場を見える化

小島さんは、消費者が種蒔きから収穫まで、年間20種類の野菜作りを楽しめる農業体験の場を提供している。「毎日、口にしている農作物が自然の中でどんな風に育ち、どれだけの月日をかけて育っているかを知って頂くことで、食の安全とは何かを見つめ直したり、農作物の生産の現場に思いを馳せたりできる場になればいいなと思って始めました」。

いわば「お客様と生産現場とのコミュニケーションの場」だと小島さん。農業体験は2011年から始めた取り組みで、今では子供連れの家族や定年退職者、会社員が同僚と一緒に参加するなど、110家族が継続的に利用し、年間のべ4000人近い来園者がある。

ホームレスと農業法人をマッチング

小島さんは小学生の時、食料がない国で、自分と同年齢の子供たちが栄養不足のために病気になっている現状をドキュメンタリーで知り、農家になろうと決心した。やがて大学生になり、日本にも生活保護受給者やホームレスなど、今日の食料にも困っている人たちが存在していることを知る。一方で農業界が人手不足である現状を知り、両者を結ぶ取り組みを始めた。

「野菜を育て上げる成功経験は、自己肯定感を高め、心が前向きになり、モチベーションを向上したり、新しいことへ挑戦する姿勢を促すと考えています。チームメンバーと意見を出し合い、栽培を試行錯誤しながら信頼関係を築き、困難を乗り越えていく姿勢をデザインするトレーニングの場にもなりえます。こうした農作業がもたらす効果を活用してプログラムを独自開発し、自己肯定感回復、コミュニケーション力向上、モチベーションの自己管理など目的別に提供しています」。

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