震災のおかげで会社がある、そう言い続けたい

ケアマネジャーから農業経営者へ

 私たちの会社名は「阿部農“縁”」と書きます。昨年までは「阿部農園」でしたが、社名を変えた理由は、私の思いによるところが大きいです。
 私はもともと看護師でした。その後、介護保険のケアマネジャーとして総合病院に勤めましたが、10年前に退職して家業を継ぎました。私の実家は、福島県須賀川市で桃や梨を生産する農家です。農業の専門用語を一つも知らない私が就農、それもいきなり経営者です。勉強するために農業研修などに参加し、桃の剪定作業などを熟練者から学びました。技術を習得すればするほど、農業経営の奥深さを感じる毎日でした。
 やがて、栽培するだけでなく、母の作る農家ならではの漬物や味噌を、農産物加工品として商品化しようと決めたとき、東日本大震災が発生し、私たちも被災。商品の出荷もままならない日々に、「これからは農業者が自分の力で販売する時代になる」と確信し、販路開拓と通販に乗り出しました。

 現在は桃や梨、柿のほか、多品目の野菜も栽培し、「野菜の定期便」として個人客に届けたり、スーパーさんに卸したりしています。念願だった農産物加工品も、手づくり味噌や福尽漬、果物のコンポートなど、どんどん種類を増やしています。
 被災した福島を応援しようと商品を購入してくださる「応援買い」のお客様とのご縁、それを、常連のお客様とのご縁に繋げていきたい。そんな思いから、地元や東京都内での催事販売、イベント運営、SNSでの情報発信などを行ううちに、あっという間に10年が過ぎました。

農業を通じた介護予防を事業化したい

 昨年から新卒採用をスタートし、今期は高校生のアルバイトも採用しています。若者が農業に加わることは、これからの農業にとって重要なこと。農業のイメージを一新して、後継者を育成するきっかけになればいいなと思っています。また、地域の親子でつくるグループとのご縁もあり、農家の伝統食である味噌や梅干などをつくる「食育」も始めています。
 そして、10年目の私の新たな目標は、農業を通じて介護予防を行うしくみを作ること。ケアマネジャーの経験を生かして、定年退職された方々が農業を通じて元気に楽しめる「大人の部活動」を始めるんです。伝統食を守り、新たなコミュニティーが生まれ、農業を通じていつまでも元気に過ごしていける、そんなしくみを3年以内に作り上げたいと、わくわくしています。
 私たちの活動をサポートしてくれるボランティアグループもできました。東京都内や近隣から、収穫・加工・商品づくり・イベント運営のサポートに来てくれる私たちの応援隊です。阿部農縁は、人の縁で支えられて、育っていく会社なのです。

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