「食べられる花」をもっと食卓へ

エディブルフラワーの情報を直営店兼加工拠点から発信

新潟平野のほぼ中央に位置する阿賀野市。五頭連峰を背に広がる田園風景の一角に、ペンション風の三角屋根の建物がある。㈱脇坂園芸の直営ショップ「Soel(ソエル)」だ。同社は2013年に総合化事業計画の認定を受けてSoelを建築し、加工場を設けた。「エディブルフラワーの情報発信のために、様々な人が集える自家用の公民館、今風に言えばリアルなフェイスブックのような場所が欲しかった」と脇坂裕一社長。構想通り、シェフ、パティシエ、野菜ソムリエのほか、全国から同業者が視察に訪れ、メディアの取材も後を絶たない。ここで情報収集も行い、エディブルフラワーの可能性や、その価値をどう伝えていくか、どんな加工品を作るかなど、様々なヒントを得ているという。

エディブルフラワーは「食べられる花」。Soelの裏のハウスでは、ビオラ、ナスタチューム、ベゴニア、ナデシコ、キンギョソウなど常時5~8種類、年間で30種類を栽培し、見学者にも開放している。その場で食べてみると、酸味を強く感じる花や、スパイシーな辛みのある花、爽やかな甘みのある花など、味の違いに驚く。Soelではエディブルフラワーを乾燥させ、ハーブティーやクッキー、塩などの加工品を生産。人気の「フラワー&ハーブソルト」は、花の種類ごとに相性の良いハーブを組み合わせ、「笹川流れ」で有名な村上市山北町の塩を使うなど、こだわりも徹底している。

Soelの名称は、日本語の「添える」から。「エディブルフラワーが日常的に料理に添えられる社会」への想いを込めて、社長自身が名付けたそうだ。

正しい商品知識の普及と安定供給の体制づくりが課題

エディブルフラワーは「食品」なので、野菜と同様、安全に食べられるよう栽培されているが、一般認知が低いため、観賞用の花も食べられるとの誤解を招く恐れがある。脇坂社長が情報発信に力を入れる理由の一つがそこにある。「観賞用の花には農薬や延命剤が使われており、決して食品ではない。その違いを理解した上で、エディブルフラワーを生活に取り入れてもらう必要がある」。

脇坂園芸は無農薬栽培にこだわり、パック詰めも手作業で行い、虫の付着をチェックする。脇坂社長は自ら展示会や商談会に出展し、エディブルフラワーの魅力と安心・安全性を、対面で来場者に訴えている。その効果もあり、取引先のレストランやショップは全国に100軒を超えた。供給が追いつかない状況だが、今年から廃校になった小学校を一部改修し、新潟県工業技術総合研究所や地元の建設業者などと共に、植物工場での水耕栽培を計画中。これにより、害虫対策や安定供給を実現できれば、新しい農業の業態として地域に貢献できる。

「供給が安定してこそ、クオリティが上がり、安心して使ってもらえるようになる」と話す脇坂社長は、全国のエディブルフラワー生産者が連携する「日本エディブルフラワー協会」の活動を準備中。全国の仲間と共に、日本の新しい文化として「エディブルフラワーがある生活」を広めて行きたいと話す。

全国の仲間と事業を拡大し、ブランド化を目指す

脇坂社長は元々、観賞用の花を育てていた。主たる事業をエディブルフラワーに転じたきっかけは、東日本大震災当時のボランティア体験にある。「自分は生産者なのに、被災地に食べものを供給できない」ことを痛感し、花の生産に無力感を感じたが、同じボランティアのメンバーから「震災直後はまず必需品だが、その後に必要なのは『癒し』」という、人生の転機となる言葉をかけられた。

「人々に癒しと栄養を与えることができる『食べられる花』を育てたい」と考え、奥様のよしみさんと共に走り出した。今では従業員7人を雇用し、生産、エディブルフラワー、焼き菓子製造、加工の4部門を稼動させている。そして、熊本地震の被災地に、エディブルフラワーのクッキーを届けようと準備中だ。

レストランで提供するメニュー開発も進んでいる。脇坂社長の仲間の1人・地元「スワンレイクレストラン」の魚野シェフは、エディブルフラワーをサラダや前菜に添えるだけでなく、油との相性が良いマリーゴールドを揚げてみたり、乾燥させた花をお皿に散りばめたりして五感を刺激する。また、野菜ソムリエの料理教室では、サラダの材料としての食べ方を工夫をしている。脇坂園芸はこうした需要拡大への取り組みを支えながら、オリジナル商品を開発し、将来的にはブランド化を目指していく考えだ。

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