栗産地を再興し、恵那栗のブランドを確立

地元の銘菓「栗きんとん」を昔のような美味しさに

 私の故郷、岐阜県の東濃地域(恵那市・中津川市周辺)は、高級和菓子「栗きんとん」の発祥の地です。恵那川上屋はこの地で、1970年代から和・洋菓子の製造・販売をしており、私は2代目の代表を務めています。

 私がまだ洋菓子店で修行をしていた頃、東京の百貨店では地元銘菓の栗きんとんを買い求める人々が行列を作っており、誇らしく思っていました。ところが、買って食べてみると、驚いたことに美味しくない。原因を調べてみると、原料の栗が変わっていることがわかりました。量産するためには東濃の栗だけでは足りず、他県産の栗を大量に使うようになっていたのです。他県から運ぶ間に栗の鮮度が落ちる分、栗きんとんの味が落ちるのは当然です。

 また、地元の栗農家の生産意欲も低下していました。他県産の栗が大量に流入したため、東濃の栗は良質でも安く買われ、農家の収入は減少。産地全体の生産量も落ち込み、昔のように「栗の里」と呼べる状態ではなくなっていたのです。

「栗の里」を再興し、「農商工連携88選」に選定

 私は地元の銘菓を復活させるための活動を始めました。基本方針は、東濃の良質な栗だけを原料に使うこと。そのためにまず、12戸の栗農家と栽培契約を結びました。良質な栗をつくってくれれば、相場の倍額で全量買い取る、品質が上がれば買い取り価格をさらに上げることを約束し、栗農家の皆さんの意欲を引き出す努力をしました。

一方で、“栗博士”と呼ばれる研究者・塚本實さんに、農家への栽培指導をお願いしました。塚本さんは30年以上の研究を経て「超低樹高栽培」を確立された方です。成木の樹高を2.5mと低く抑えて主幹を取り除き、枝が横に伸びるように剪定すると、枝に日光がよく当たるので、栗の実が大きく生長する。収穫量が増え、毎年の収穫量も安定するので、実践する農家は次々に増えました。

そして、契約栽培開始から5年目に、私たちは「超特選栗部会」を設立しました。これは「恵那栗」のブランド化を進めるための組織です。上部団体である東美濃栗振興協議会の会長や塚本さんをはじめとする選考委員が畑を審査し、基準に達した農家を会員として迎えます。そして、超特選栗部会とJAひがしみのが定めた厳しい栽培・選別基準をクリアした栗を「超特選恵那栗」として認定し、ブランド価値を高めています。いまでは会員農家は80戸以上、生産量は年間100tを超えています。こうして栗産地を再興した私たちの取り組みは、「農商工連携88選」に選出されました。

 もう一つの課題は、将来の栗づくりの担い手育成です。私たちは、新たに設立した農業生産法人「恵那栗」で耕作放棄地20haを借り上げ、6000本の栗の木を植えました。農地を持たない若者に、農場として開放する予定です。また、南信州や北海道などでも栗栽培の指導において協力関係を結んでいます。全国に「超低樹高栽培」を広め、世界に誇る「和栗」として発信することが、私たちの夢です。

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